君にすべてを捧げよう
「観ましたよ、あれ! いやー、すごくよかった。
ストーリー性が高くて、なによりちろんにぴったりだった!」

「ああ、ありがとうございます」

「ええと、たしかひつまぶし……ひつまぶしれんたって作家名じゃなかったですかね?
今、週刊××で連載もされているような」

「そうです。そこまで存じてくださってるだなんて、嬉しいですね」

「いやいや、仕事柄名前を覚えるのが得意でして」


オーナー、詳しすぎ。
ていうか、結城さん(本店勤務の先輩。かわいらしい癒し系男子)までそういうの観てるんだ……。
なんだかショック。

一歩離れたところで、蓮に群がる男どもを眺める。
そんなにすごいこと? AVになった作品の作家ってだけなんだよ?
意味わかんない。


「あのー。カラーリングの途中なんですけどー」

「あ、俺がやるっす。もっと話聞きたいんで!」


液剤の入ったカップとハケを馬渡くんに奪われた。
ええ? と驚いてみれば、次は鏑木さんが振り返るなり、


「ハイネ、俺もやるからいいよ。それと、カットもする。いいですよね、オーナー?」


と言った。
あの、これあたしの参観日のお仕事なんですけど。
そんなことオーナーが許すはずないじゃないですか、と思ったのに、


「いいよ!」


あっさり快諾したよ、この人。

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