君にすべてを捧げよう
「あー、あったね。あの時は彼が自分で洗剤被ったよね」

「そうそう、自業自得でした。あ、ちょっとそのままで。すぐ拭きますから」



乾いたタオルを持ってきて、裾を拭く。


「ありがと。ごめんね」

「いえいえ。着替え、ありますか? なんならここで洗濯しますけど」

「ん、ある」

「じゃ、着替えたらすぐ持ってきてください」


よ、と立ち上がると、驚くくらい近くに鏑木さんの顔があった。
あたしの顔をじ、と見つめる。


「な、なんですか?」

「いや、最近しみじみ思ってたんだけどね」


と、鏑木さんの腕が腰に回され、ぐいと引かれた。
体と体がぺとりとくっつく。


「ちょ!? ふ、ふざけないで」

「ハイネって、無防備すぎだよね」


綺麗な顔でくすりと笑い、鏑木さんはついと顔を近づけてきた。
そのまま、ふわりと触れるような柔らかい感触が、唇に与えられた。


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