君にすべてを捧げよう
沖縄が梅雨入りしたと、朝のニュースで美人気象予報士が言っていた。
もうすぐ、あたしが一年で一番嫌いな季節が始まる。
足早に通り過ぎて、すぐに秋になってしまえばいいのに。
じめじめした雨降りも、蝉の大合唱も、大嫌いだ。


「はー、憂鬱」


天気の良い、心地いい日曜日の昼下がり。
縁側に腰掛け、雲一つない青空を見上げたあたしはでっかいため息をついた。


憂鬱は憂鬱なのだが、今の理由は季節の好みではない。
言わずもがな、今日我が家に訪問にやって来る鏑木さんのことである。

ふいにあたしにキスしてきたあの人は、あれから全く何もなかったかのような態度で接してくる。
白昼夢でも見たんじゃないかと、自分の精神状態を怪しんでしまうほどに、普通なのだ。

あのキスは一体なんだったんだろう。
からかい? だとしたら趣味が悪すぎる。
からかいじゃないとしても困るけど。
だいたい、仕事関係には手を出さないって言ってたのに、どうして。

もしかして千佳ちゃんにもあんな風に手を出してるんだろうか。
だったら問題。いやでも、あの子はそんなことされたらすぐに態度にでるだろうしなあ。


「あーもう、頭痛い」

「どうしたんだ、めぐる。具合悪いのか?」


背後で、蓮の声がした。
首だけ動かして振り返って見れば、木の丸盆を抱えた、作務衣姿の蓮が立っていた。


「あ、蓮」


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