君にすべてを捧げよう
「ほれ、食え。ここ何日か、調子悪いな。どうかしたのか?」


丸盆からおまんじゅうを取って、あたしに寄越す。
優しい緑色のそれは、あたしが大好きなさかまき堂のよもぎまんじゅうだった。


「ありがと。てか、これどうしたの?」

「さっき散歩がてら買ってきた」


蓮はあたしの横に座った。
丸盆の上には山盛のよもぎまんじゅうと、湯気の立った湯呑が二つ置かれていた。


「すごい量。二人じゃ食べきれないでしょ」

「小学校の時、9個平らげてたじゃないか」

「あれは子供の時だし、あの後お腹こわして大変だったもん」

「そうだったか」


ぱく、とおまんじゅうを齧り、横でもぐもぐと口を動かす蓮を窺った。
もしかして、蓮なりに気を使ってくれたんだろうか
いやでも、この人にそういう気の利く真似が出来るとは思えないしな。


「美味いか?」

「うん。あ! 蓮、締切大丈夫なの? 散歩する余裕なんてないでしょ?」

「一個は終わった。メール送って終了だな」


蓮は三つ目のおまんじゅうに手を伸ばした。
お腹がすいていたらしい。それにつられて、あたしも二個めのおまんじゅうを手に取る。

蓮の気まぐれだとしても、そのおかげでさっきまでのもやもやが影を潜めた。
おまんじゅうは美味しいし、天気はいいし、今は鏑木さんのことは考えないでおこう。


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