君にすべてを捧げよう
「調子よかったんだね、お疲れ様」

「あと一つ残ってるけどな。鏑木君たちが来るっていうから、少し頑張ってみた」

「んぅ!」


いきなり鏑木さんの名前が出て喉に餡子がつまった。
げほげほと咽たあたしに、蓮が湯呑を差し出してくれる。


「どうした、急に。ゆっくり食えよ」

「わ、わかってる……っ、げっほ……」


こいつ、実は何もかも知ってるんじゃないだろうか。
背中を擦ってくれる蓮を、苦しくて涙の滲んだ目の端で見た。
しかし、それはあたしの気にしすぎであるらしい。
蓮は真剣な顔で言った。


「よもぎまんじゅう、そんなに好きなら残りは全部やるから」

「違うし。食べきれないって言ったじゃん。あー、苦しかった」


ふう、と息をつき、湯呑のお茶を飲んだ。


「あ、そうだ。仕事がひと段落ついたなら、ゆっくり夕飯食べられる?
今晩何が食べたい?」

「ん? あー、そうだな、水炊き?」


鍋料理は蓮の好物の一つだ。


「好きだねー。いいよ、じゃあお鍋にしよう。あ、材料が少し足りないな。夕方、買い物連れて行ってよ」

「分かった」


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