君にすべてを捧げよう
「じゃあ、早速離れに行こうか。そこが俺の部屋なもんで」

「はい! てか、庭もすごいすねー。びっくりっす」

「俺の家じゃないけどねー」


金髪坊主の強面男が、尻尾を振った子犬のように蓮に纏わりついている。
馬渡くんは見た目に反して、人懐こい、懐にすいと入り込んでくるようなとことがあるのだ。
それが蓮には新鮮なのか、にこにこと笑って案内している。

あたしは、その少し後ろを鏑木さんと並んで歩いていた。
距離を置こうにも、何故か横に並んでくるのだ。


「広いねー、ホント」

「掃除が面倒なんですよね、はは」

「あ、あれ桜だよね。いいな、庭でお花見できるんだ」

「葉桜になると毛虫がすごいんですけどね」


き、気まずい。
仕事場だとどうにか切り返しが出来るのに、こういうイレギュラーな展開だと、どうしていいのか分からない。
とりあえず、蓮の離れに押し込んでしまえばあたしの役割はおしまいだし、それまでの辛抱だ。


「あ、これお土産」


と、鏑木さんが箱を差し出した。


「最近できた店らしいんだけど、美味しいんだって。ケーキ」

「うわあ、知ってます、ここ。美味しいって聞きました、ありがとうございます。
お茶と一緒に持って行きますね。あ、離れにどうぞ、あたし母屋に一度戻ります」

「お茶淹れるの手伝おうか?」


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