君にすべてを捧げよう
「いえ、大丈夫です」


ケーキの箱を抱えて逃げるように母屋に戻った。
キッチンのテーブルにそれを置き、ため息。


「き、緊張した……」


横に並んでいた時、鏑木さんが妙に近かった気がする。
気のせいだろうか、いやでも、肩が一瞬触れた気がするし。


「あーもう、冗談でした、とか言ってくれたらいいのに!」


一人で振り回されているようで、腹が立つ。
あの人は何を考えてるんだろう。


「とりあえず、さっさと持っていこ。あ……」


テーブルの上に、山盛りのおまんじゅうが置かれていた。
縁側にあったのを蓮が片づけてくれたらしい。


「にしても、ホントに買いすぎ」


思わずくすりと笑う。
幾ら子供の頃のあたしがよく食べていたからって、こんなに食べられるはずがないのに。
もしかしたら、本当にあたしのこと気にしてくれたのかな。
だったら、少し嬉しいかも。


「これも、持って行くか」


馬渡くんも鏑木さんも甘党だし、喜ぶかもしれない。
蓮も、鏑木さんもコーヒー派(馬渡くんは炭酸系ばかり)なので、二人には濃いめのコーヒー、馬渡くんにコーラを用意して、持って行くことにした。


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