君にすべてを捧げよう
トレイに乗せて、離れに向かう。
離れと言っても、きちんと廊下で繋がっているので、いちいち外に降りなくてもいいのだ。
少し長めの渡り廊下を通り、扉をノックした。


「はいよ」


引き戸を開けてくれたのは蓮だったが、その背後では、耳を塞ぎたくなるような女の人の嬌声が流れていた。
既に、如何わしい映像を流しているらしい。


「はい、これどうぞ」

「お、悪いな。入るか?」

「遠慮します!! はい、受け取って!」


卑猥な水音まで耳に入り、思わず顔が真っ赤になる。蓮にトレイを押し付けて、逃げ出すようにその場を後にした。



「あーもう、最低!」


自分の分のコーヒーとケーキを持って、リビングに移動する。
純和風の我が家だが、リビングと浴室だけは洋風にリフォームされている。
そのリビングは元は母親の趣味(真っ白のゴシック系)で統一されていたけれど、今ではすっかり自分好みになった。なので、自室よりもあたしのお気に入りの場所だったりする。

テレビを入れ、定位置の赤のラブソファにどすんと座る。
猫足のガラスのサイドテーブルを引き寄せ、乗っていたリモコンを取った。
こんな時は、好きな映画を見るに限る。


「大音量で見てやる」


大好きなそれは映像がとにかく綺麗で、見ているだけで幸せな気持ちになる。
奇抜なヘアにポップな服装の主人公は綿あめみたいにとても可愛くて、あたしもこんな風に甘い女の子になれたらどれだけ幸せだろうとか、年がいもなく考えてしまう。

< 72 / 262 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop