君にすべてを捧げよう
「えー、だってこれ、女性用だよ?」

「蓮のです!! ていうか、開封してないでしょ!?」


「あ、ホントだねー。ていうか、これネーミング凄すぎ、あはは」


あっけらかんと笑う鏑木さんに、軽く眩暈を覚える。
心臓に悪いジョークはやめて欲しい、ホントに。


「でもさ」


ふいに、鏑木さんの声のトーンが変わった。


「え?」

「二人きりでいて、変な感情湧かないの?」

「え? 鏑木、さん?」

「好きな男と二人きりで、こんなものに囲まれてさ。何にも思わないの? 変な気分になっちゃったり、しない?」


ふ、と鏑木さんがあたしに視線を向けた。
その目には、さっきまでの愉快そうな色は全く無くなっていた。


「す、好きな男とか、そんなの、別に……。
それに、蓮はあたしのことそういう目で見てませんか、ら」



『すまん、めぐるのことそんな目で見る気はない』


暑い夏の日。蝉があたしのことをあざ笑うかのようにけたたましく鳴いていた。
涙と汗で蓮の姿が霞んで見えた。
そんな風に言わなくても、知ってる――


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