君にすべてを捧げよう
「ハイネ? ぼんやりしてどうかした?」


「! な、なんでもないです」


不意に襲ってきた過去の映像に、気を取られていた。
慌てて取り繕うように笑った。


「とにかく、あたしは蓮の対象外です」

「ふうん。じゃあ、ハイネの片思いは報われることはない、ってことでいいわけ?」


鏑木さんは、あたしの蓮への気持ちを確信しているようだ。
ならば、これ以上否定しても、意味がない。

ため息をついて、降参です、と言った。


「その通りです。報われません、ハイ」

「ふうん」


と、ヤカンがしゅんしゅんと音を立て始めた。


「あ、と。すぐコーヒー入れますね」


火を消し、横に置いていたコーヒー豆の缶を手に取る。
蓋を開けようとした瞬間、背後から抱きすくめられた。


「わ、わあ!? 鏑木さん!?」


数日前のように、柑橘系の香りが鼻腔を擽る。
こめかみのあたりに、吐息がかかった。


「な、なにするんですか! あ、あの」


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