君にすべてを捧げよう
――母親同士が従姉妹という関係を超えた親友同士であった為、あたしと蓮は兄妹のように育った。園児だった頃は、実の兄だと思っていたほどだった。


蓮は、昔から創作が上手かった。
あたしの寝物語はイソップでもグリムでも、日本昔話でもなく、蓮の紡ぐ少し変わった不思議なお話だった。

成長し続けるキリンの首の話だったり、王子様になったおばあさんの話だったり、それはとても楽しいものだった。
いつも寝るのがもったいなくて、あたしは必死に起きていようとするのだけど、それでも最後まで聞くことは叶わず、はっとすれば朝になっていたものだった。


蓮の作るお話はすべてあたしのものだった。

小学生になった頃には、誕生日のプレゼントに蓮の作ったお話を貰った。
可愛くない飾り気のないノートに、あたしだけが入ることを許された世界が広がる。
12歳の誕生日まで貰い続けたそれは紛うことなき宝物で、今も本棚の隅にしまってある。


このころには、蓮への想いは親愛のそれではなく、異性に対する『恋』や『愛』という感情に変化していた。
あたしだけの物語を紡いでくれる蓮を、あたしだけのものにしたかった。


時が経つにつれ、いつしか蓮の創造する世界も、あたし以外にも向けられるようになった。
高校生の頃には投稿誌の隅に名前が載るようになり、大学生の頃には作家と呼ばれるようになり、卒業する頃には書店に本が並んでいた。
蓮の才能をとっくの昔から知っていたあたしからしてみればそれは至極当然のことで、作家にはなるべくしてなったのだと思っていた。

ただ、一つだけ違ったのは、蓮の横に、あたしではない女の人が寄り添っていたことだった。
あたしだけのものだった蓮の世界は皆の物になり、あたしだけのものだった蓮は、あたしではない人のものになった。



生まれて初めての唯一の恋は、あたしが中学生の時、見事に粉砕されたのだった。
だからといって想いを忘れることは、できなかったけれど。


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