君にすべてを捧げよう
24時間、蓮と共にいて、蓮のサポートをする。
あたしの手で、蓮を元に戻したい。いや、戻す。そう決めていた。


母も、遠く離れた地にいる父も反対した。
蓮のことは勿論心配だが、だからってお前が人生の大事な一歩を遅らせなくてもいい、と。

でも、譲らなかった。
あたしは、あんな状態の蓮を放っておくなんて真似、できない。
連れて行かれた魂を、こっちに呼び戻さないと、蓮は永久にいなくなってしまう。


食事を作り、食べさせ、散歩を促す。
その当時はまだ拙かったけれど、伸びた髪を切り、毎日セットした。

蓮が好きだったご飯、好きだった本、好きだった音楽、好きだった花。
覚えている限りのものを用意し、蓮の前に出した。


『蓮』
『蓮』
『ねえ、蓮』
『蓮ってば。蓮』

幾度も名前を呼び、話しかけた。


反応の薄い半年を過ぎた頃、蓮が時折笑ってくれるようになった。
庭の桜が芽吹きだした頃、ぽつりぽつりと話してくれるようになった。
忌まわしい梅雨を抜け、庭先に蝉が鳴き声を響かせだした頃、あたしは蓮に、宝物のノートを見せた。


『ほらこれ、11歳の時のプレゼント。あたしが一番好きなお話』


それは、傲慢な王女様の身代わりになって他国へ嫁ぐ、心優しい女の子のお話だった。


『このお話に出てくるカエルの精霊が大好きだったんだ。あたしもこんな精霊の入ってるネックレス、欲しかったな』

『水晶くらい、いくらでも買ってやる。カエルを探してみろよ』


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