君にすべてを捧げよう
何気ない、蓮の言葉。
しかしそれは、1年以上前に消失してしまっていた、『いつもの』蓮の口調だった。


回復してきてる……。


嬉しさに、泣いた。

それから蓮は、食事も自分からとるようになり、みちがえるように元気になった。
捨てずに隠していたパソコンを見つけてきてからは、ぽつりぽつりと文章を打ち込むようになった。
様子を見に来た蓮の両親は喜び、何度も何度も礼を言われた。


そんなある日のことだった。


母は、ペナン島の父の様子を見に行くと言って渡航し、広い家にはあたしと蓮の二人きりだった。
茹で上がってしまうような、残暑の暴力的な暑さが少しだけ緩んだ、夕暮れ。
夕飯の支度をしていて、ふ、と空気が変わったのを感じて外を見れば、遠くに雨雲が見えた。


『夕立、かな。洗濯物入れなくちゃ』


物干し場は、離れの裏手にある。
ばたばたと取り込んで、何気なく離れの中を覗いた。


『あれ? 蓮、寝てる?』


見れば、パソコン用デスクに俯せて、蓮が眠っていた。


『エアコン効いてるのに、風邪ひいちゃう』


中に入り、温度調整をし、タオルケットを蓮に掛けた。


< 92 / 262 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop