鬼灯ノ夜叉
序章
夜道に笛の音が響く。
どこまでも澄んだ、心に澄み渡る音だった。
カラカラと下駄を鳴らして歩く石畳の脇には朱に染まる灯籠が並んでいる。
闇をほんのり照らす光が少女と青年を悲しげに包んでいた。
不意に笛の音が止む。
同時に下駄を鳴らしていた少女も動きを止めた。
長い道のりの中、少しも振り返らず半歩前を歩いていた青年がそこでようやく視線を少女に移した。
「どうした?」
力強い外見に似つかない優しい声。
俯いて顔をあげようとしない少女の肩がビクリと跳ねる。
緊張で汗ばんだ手で握っていたせいで純白の花嫁衣装は皺くちゃになってしまっていた。
今まで見たことがなかった弱々しい少女の姿。
青年は天空と同じ濃紺の着物を翻し腕を伸ばす。
「――っ」
息を詰める声を無視して引き寄せれば華奢な身体はすっぽりと収まった。
「何も考えるな。俺がついている」
胸がツキリと痛んだ。
違う、と本当は叫びたかった。