瞬きさえも忘れていた。
「ずーっと私を見てたらいい……ってやつ」


「ああ、それね」

ようやく思い出したように軽く頷いた岩本さん。というか、忘れるの早過ぎじゃないですか?



「花火見に来たんだから、花火見てください」


「俺は両方見るよ? 花火も、鳴瀬さんも」

言って、岩本さんはニッと両口角を上げて悪戯っぽく笑った。



この期に及んで、まだふざけますか。



「私なんかいつでも見れるけど、花火は今しか見れないんだから。花火見ましょうよ」


そうこう言っている間にも、花火は次々と打ち上げられる。一体、何発見逃したんだろうって、そんなことを考えると悔しくなる。



「今の鳴瀬さんだって、今しか見れない」

岩本さんはそう言って屈託なく笑った。


「それは……そうですけど……」

ボソボソと同意を口にしたけど、何かが違う気がする。でもその違和感の正体が曖昧過ぎて、何も言い返せないのがもどかしい。


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