瞬きさえも忘れていた。
「甲本さん……。お疲れさまです」

おずおずと、お決まりの挨拶を口にすれば、

「お疲れっ」

甲本さんは弾むような口調で返し、ニッと一層微笑んで見せた。



「この前はごめんね。なんか俺、勝手に勘違いしちゃって」


「勘違い?」


「そう。梨乃ちゃんも俺に気があるのかなぁなんて、調子んのって誘ったんだけど、独り善がりだった、みたいな」


そう言って、声まで漏らして照れ臭そうに笑う。

すごく爽やかで感じがいい。


だから、余計に彼への嫌悪感が増した。何かを企んでいるような気がして、警戒してしまう。



だって、そんなんじゃなかったはず。


勘違いは勘違いかもしれないけど。

あれは、私が甲本さんに気があるとかじゃなくて、私が誰でもいいから誘って欲しいと思っているって……。

そんな、失礼極まりない勘違いだった。


< 106 / 255 >

この作品をシェア

pagetop