瞬きさえも忘れていた。
「痛い……」

攻撃されたそこを手で軽く押さえて、ボソッと文句を言えば、

「嘘つけ」

と笑い飛ばされた。



膝の上のお弁当に視線を落とし、どうしようかと考えた。


自分だけ食べるなんて、何となく気が引ける。それに……。


「あの、」


「ん?」


「これだけ暑いと、食欲わかないです」


おずおずと本音を伝えたら、「そっか。気付かなかった、ごめん」と。岩本さんは申し訳なさそうに苦笑した。



戻るか、そう言ってニッと、口角だけを上げるいつもの笑みを見せて、岩本さんは立ち上がった。



「あの、」

ベンチに座ったままで、高い位置へと離れてしまった彼の顔を見上げて呼び止めた。



「今度は『あの』ばっか」

岩本さんはからかうように言って、優しく目を細めて笑った。



「ごめん、何?」


そう聞かれても、すぐには言葉が出て来なくて、ほんの少しの間、背の高い彼をじっと見詰めていた。

岩本さんは不思議そうに小首を傾げる。


この優しい表情と仕草が本当に好き。


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