瞬きさえも忘れていた。
「私たち、付き合ってないですか?」


口にした途端、後悔した。


まるで、ベタな昼ドラで面倒臭い女が言うセリフだ。

『私たち、いつまで平行線辿るの?』的な……。



岩本さんは一瞬だけ真顔になって、けれどそれはすぐに柔らかい笑顔に変わる。


「飲むもん買ってくる」

言って私の方へと一歩踏み出した岩本さんに、頭の天辺をくしゃりと撫でられた。






岩本さんは、公園を出た所に設置してある自動販売機で、ペットボトル二本を買って戻って来た。


ウーロン茶の方を私に差し出し、礼を言って受け取れば、自分スポーツドリンクの蓋を開けて、ゴクゴクと結構な勢いで飲んだ。



「うまっ(美味い)」

溜息のようにこぼして、幸せそうに微笑んだ岩本さん。


その穏やかさが、何故だか私を一層不安にさせる。



岩本さんはフウと小さく息を吐いてから口を開いた。


「あのさ、」


「ん」


「『付き合う』って何? そういうの要る?」


決して怒っている風ではなくて。私に真っ直ぐ向けられている視線は至って穏やか。


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