瞬きさえも忘れていた。
「そんなに責めるなよ。そうじゃないって」


岩本さんは怒るどころか困ったように苦笑して。

ごめん、なんて続けて謝ったりするから……。


もうそれ以上、言葉を発するのが億劫になった。



「愛って、形のないものでしょ。『付き合う』とかそういう形式みたいなのに縛られずに、ただひたすら愛したいって思う。もちろん梨乃のことをね?」



意味がわからない。なのに岩本さんの気持ちが、本音が本心が、痛いぐらいに伝わってきて、胸の奥に響くから嫌になる。


そして、こんな時に『梨乃』なんて、初めて名前で呼んだりするから、尚更嫌になる。



「俺、こう見えて意外と一途だし? あ、でも梨乃にどう見えてるか知んないけど」


冗談だって言えちゃうんだ。

その余裕に腹が立つ。



「今は、こういう愛し方しかできないかな」

澄み渡った濃い水色をぼんやり見上げて、独り言のように呟く。その横顔の儚さに切なくなった。



「もう二度と後悔したくないし、傷付きたくない。ごめんね、こんなヘタレで」


傷付きたくないなんて言いながら、傷付いた顔をして笑うんだから。

もう苦しまないでって、切に願ってしまう。


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