瞬きさえも忘れていた。
甲本さんの裏事情
社へ戻ったところで岩本さんとは別れ、事務所二階の会議室へ行った。
パートの奥様三人は既に食事を終え、テレビを見ながらくつろいでいた。
会議室は複数の長机を横長なロの字型に並べてある。
奥の窓際に製造部の二人、彼女たちに向き合うようにして手前に一人、同じ管理部の猪飼さんが腰掛けていた。
猪飼さんの隣に腰掛けようと椅子を引けば、
「あら、鳴瀬さん、おかえり」
私を見上げた猪飼さんが、笑顔で声をかけてくれた。
「ただいま」
私も笑顔で返しながら腰を下ろし、机の上に置いたお弁当を巾着から取り出した。
「ご飯、食堂で食べたんじゃなかったの?」
と、不思議そうに尋ねる猪飼さんに、
「はい。食べそびれちゃいました」
曖昧に答えて、ニッと笑って誤魔化した。
「そうなの」
ボソッと相槌みたいな言葉を返し、猪飼さんは再び視線をテレビへ戻した。
深く追求されなくて良かった。ホッと胸を撫で下ろす。