瞬きさえも忘れていた。
午後始業10分前、奥さまたちは歯磨きのため一階の炊事場へ移動する。
ようやくお昼を食べ終えた私は、つけっぱなしになっているテレビをぼんやり眺めていた。
番組の切り替わり時間で、コマーシャルが延々と流れているだけ。
「梨乃ちゃん」
不意に背後から声を掛けられ振り返れば、吉田さんと樽井さんが会議室の入口に立っていた。
ああ、食堂でのこと聞かれるのかな、とか……。
ほんの少し憂鬱な気持ちになる。
「岩本くんと一緒に出てったのに、岩本くんしか戻って来なかったから気になって」
吉田さんは、困ったような顔で苦笑しながら言って、私の隣に座った。
樽井さんもそのまた隣の椅子を引っ張り出して、浅くチョコンと腰掛ける。
「えっと……。お弁当持ってるのに食堂って、やっぱりなんかおかしいなって思って」
意味不明な言い訳で誤魔化そうとしてみたけど失敗。
「梨乃ちゃん、甲本くんとなんかあった?」
吉田さんは何の躊躇いもなく、いきなり核心に触れる。