瞬きさえも忘れていた。
「はい……」

目を逸らすように伏せて、小さく頷いた。


多分、誤魔化しても無駄だ。吉田さんの真剣な表情や力の籠った声には、そう思わせるほどの頑なさがあった。



「甲本さんから食事に誘われて……。結構強引だったし、断る理由も特に見付からなくて、それで……」


「行ったの? 食事」

吉田さんは何故だか酷く驚いた様子で、身を少しこちらに乗り出し尋ねてきた。



はい、と答えたら、前倒しになっていた上体を、今度は後方に引いて強張らせた。そのまま身じろぎもせず、唖然とした表情で私を見詰める。



「どう……したんですか?」

恐る恐る問えば、

「じゃあ梨乃ちゃん、甲本くんと……?」

凄く言い辛そうに、その口から声を押し出した。その声が心なしか震えているように感じた。



「え? 何がですか?」


「その……身体の関係……」


「えっ?」


確かに、ラブホテルに連れ込まれそうになったけど、でもどうして食事に誘われたって言っただけで、話がそっちへ向かうのか。

訳が分からなくて思考が混乱した。


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