瞬きさえも忘れていた。
「若い頃、酷いやんちゃやってたみたいでね。っていうか、族とか組とか、そっち系の人とも未だに関係あるみたい。

で、高校中退してプラプラしてるのを見るに見兼ねた父親が、個人的にうちの社長に面倒みてくれるよう頼んだんだって聞いてる」


あくまでこれ噂だけどね、と取り繕うように言い足して、吉田さんは苦笑した。



「あ、やばっ、仕事始まっちゃう」


再び自分の腕時計に視線を落とした吉田さんは、ガタッと椅子を鳴らして立ち上がった。


けれど、思い出したように私を見下ろして、左肩に上からそっと触れる。



「なんか色々、一方的にしゃべっちゃってごめんね? とにかく、甲本くんには気を付けてってことが言いたかったの。またゆっくり話そ?」


その声は、穏やかで優しくて。

吉田さんは心の底から私のことを心配してくれているんだ、そう確信した。



その気持ちが嬉しくて、自然と頬が緩む。


「はい、ありがとうございます」

と笑顔で礼を言えば、吉田さんはホッとしたような、でもまだ不安は残っているような、そんな複雑な微笑を浮かべて小さく頷いた。


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