瞬きさえも忘れていた。
そして、隣に立っている樽井さんに目線だけで合図する。


樽井さんはコクッと首を縦に振ってそれに応えると、今度は私の方へ向き直った。



何かを訴えるような眼差しで、じっと私を見詰めるから、

「樽井さん?」

戸惑いがちに小さく声を掛ければ、ハッとしたように慌てて微笑んで見せた。



「大丈夫……かな?」

どう見たって大丈夫じゃないけど、何て言ったらいいかわからなくて、そんな言葉しか出て来なかった。


「うん、多分」

樽井さんは他人事のように答えて、へへっと誤魔化すように笑うと、くるんと身を翻して吉田さんの後を追った。



たった一人、会議室に取り残された。

緊張が解けてホッとすると共に、酷い脱力感に襲われる。


もちろん、私も仕事に戻らなきゃいけないけど、すぐには動き出せなくて。

樽井さんのさっきまでの様子を思い返していた。



樽井さんは――

樽井さんもきっと、甲本さんに誘われた『漏れなく』のうちの一人だ。


そしてもしかしたら……。

ああ、ダメダメ。考えるのはよそう。


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