瞬きさえも忘れていた。

「こんにちは」

屈託ない笑顔を惜しみなく私に向け、挨拶を口にした彼女。その余りの可愛らしさに、彼女が岩本さんの元カノだと確信した。


幼さの残る丸みを帯びた小顔。その顔の半分を占めているんじゃないかと思うほどに大きくて円らな瞳が、とても印象的だった。



彼女は小さな身体で、勢いよく岩本さんに抱き付いた。岩本さんの背中に回された華奢な両腕に、もの凄い力が込められていることは傍から見ていても瞭然だった。



「陽奈乃（ひなの）……どうして……」

呆然と彼女――陽奈乃さんを見下ろしながら、躊躇いがちに岩本さんが問う。



陽奈乃さんも岩本さんを見上げ、

「家、出て来ちゃった」

言って、悪戯っぽく笑った。



ぼやけて歪む視界の中の光景が、まるで夢か幻かのように感じた。それなのに、これが現実だと痛いほどに理解していて。