瞬きさえも忘れていた。
三階の通路をトボトボ歩く。上って来たのとは反対側の階段から下りて帰ろうと思った。
ふと足を止めて、通路の手すりに両肘を引っ掛け遠くを眺めた。目に映るのは田んぼの中にポツポツと寂しげに佇む民家。
ここは田舎だなぁ……。
目の下端に薄っすらと積もる涙が、視界をぼんやりさせる。瞬きを何度繰り返しても、それは頑として消えてはくれず。
自分と涙と、その両方の必死さにまた泣けた。
二階通路での二人の話し声は当たり前だけどこちらに筒抜けで。耳を塞ぎたくなる衝動とは裏腹に、耳を澄ましてしまう自虐的な私。
「達志、会いたかったー。ごめんね、待たせちゃって。あのね、わたし……」
弾むような彼女の可愛らしい声に、「わかった、わかったから」と、岩本さんはいつもの低くて落ち着いた声で応える。
「聞いてよー」
駄々をこねる声だって可憐だ。
私にもあんな風に可愛く拗ねてみたりできたら、そしたら、何かが変わったのかな。
ふと足を止めて、通路の手すりに両肘を引っ掛け遠くを眺めた。目に映るのは田んぼの中にポツポツと寂しげに佇む民家。
ここは田舎だなぁ……。
目の下端に薄っすらと積もる涙が、視界をぼんやりさせる。瞬きを何度繰り返しても、それは頑として消えてはくれず。
自分と涙と、その両方の必死さにまた泣けた。
二階通路での二人の話し声は当たり前だけどこちらに筒抜けで。耳を塞ぎたくなる衝動とは裏腹に、耳を澄ましてしまう自虐的な私。
「達志、会いたかったー。ごめんね、待たせちゃって。あのね、わたし……」
弾むような彼女の可愛らしい声に、「わかった、わかったから」と、岩本さんはいつもの低くて落ち着いた声で応える。
「聞いてよー」
駄々をこねる声だって可憐だ。
私にもあんな風に可愛く拗ねてみたりできたら、そしたら、何かが変わったのかな。