瞬きさえも忘れていた。
駅のホーム、ベンチに崩れるように腰を落とした。
隣に座っていたスーツ姿の男性が、こちらを凝視しているのが視界の端に映り込んだけど、気にしない。気にしてなんかいられない。
ようやく乾いた頬は、風が触れるとやっぱり冷たい。
それが何だか酷く虚しくて、じーんと目の奥がまた熱くなる。けれど、下唇をキュッと噛みしめて堪えた。
スマホを取り出して確認した時間に溜息が零れた。
私が乗る電車は5分前に出たばかりだ。
30分近くもの間、ここでこうして、ひたすら痛みに耐えなきゃならないなんて悲劇だ。
と、スマホのイルミネーションがチカチカと光って着信を告げる。
画面には、『岩本達志』の文字。
スマホを支える指先が微かに震えているのを見て、自分が動揺していることを知った。
『岩本達志』
ただ、名前を綴っただけの文字なのに、苦しいほどに愛しくて。
強張って思い通りにいかない手を何とか必死に動かして、膝の上の鞄の中へそっと戻した。