瞬きさえも忘れていた。
工場に一歩足を踏み入れた時は、事務所の効きすぎた冷房のせいで冷え切った私の肌は、ボワンとした温かみを感じた程度だった。


だけども今は、息苦しいほどに暑い。


丸襟の半袖ブラウスが肌に貼り付いて気持ち悪いし、おまけに頬骨辺りからツーッと、雫が一つ滑り落ちるのを感じた。



気の利いた言葉なんか思い付かない私は、それでもその場を離れるのがどうにも惜しくて、突っ立ったまま彼を見詰め続けていた。



彼はそんな私を見て、不思議そうにまた首を小さく傾げた。そんなちょっとした仕草にも、ドクドクと鼓動が昂るから困る。



けれどすぐ、彼は私に背を向けて、どこか機械の影へと消える。



ホッと胸を撫で下ろすと同時に、寂しくて切なくなった。


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