瞬きさえも忘れていた。
どれぐらいの時間が経ったのだろう。
三台ぐらいの電車が停車して、その度にホームに立っている人たちが入れ替わった。
鞄から再びスマホを取り出して時間を確認する。
あと15分くらいか。意外に時の流れは緩やかだ。
その後、岩本さんからの着信はない。
ホッとすると同時に、また胸がぎゅうぎゅう締め付けられた。
早く家に帰って思いっ切り泣きたいのに。そしたら、少しは気が晴れるかも知れないのに。
そんな風に、僅かな可能性に縋っていると、
「梨乃っ!」
少し離れたところから名を呼ばれた。
思わず、張り裂けそうな胸を右手でキュッと掴んで息を吞んだ。
恐る恐る声のした方へ視線を滑らせた。
こちらに向かって駆け寄るその人は「梨乃!」と、もう一度私の名を呼ぶ。
来ないで、と叫んで拒みたい気持ちと、今すぐ立ち上がって抱き付きたい気持ちと。二つの真逆の衝動がぶつかり合って、逆に身動きとれなくて。
キャパオーバーに怯えて震える自分の身体を、両腕で抱きしめた。