瞬きさえも忘れていた。



どれぐらいの時間が経ったのだろう。


三台ぐらいの電車が停車して、その度にホームに立っている人たちが入れ替わった。



鞄から再びスマホを取り出して時間を確認する。

あと15分くらいか。意外に時の流れは緩やかだ。



その後、岩本さんからの着信はない。

ホッとすると同時に、また胸がぎゅうぎゅう締め付けられた。



早く家に帰って思いっ切り泣きたいのに。そしたら、少しは気が晴れるかも知れないのに。


そんな風に、僅かな可能性に縋っていると、

「梨乃っ!」

少し離れたところから名を呼ばれた。



思わず、張り裂けそうな胸を右手でキュッと掴んで息を吞んだ。


恐る恐る声のした方へ視線を滑らせた。

こちらに向かって駆け寄るその人は「梨乃!」と、もう一度私の名を呼ぶ。



来ないで、と叫んで拒みたい気持ちと、今すぐ立ち上がって抱き付きたい気持ちと。二つの真逆の衝動がぶつかり合って、逆に身動きとれなくて。


キャパオーバーに怯えて震える自分の身体を、両腕で抱きしめた。


< 140 / 255 >

この作品をシェア

pagetop