瞬きさえも忘れていた。
チラリ、こちらに一瞬だけ寄越した視線は、すぐまた正面に向けられた。


その横顔は酷く深刻で。

どんな想いで決断してくれたんだろう、と。思いを馳せれば、胸が苦しくなった。



「陽奈乃とは、きちんと別れ話をする時間もなかったから。俺の方は勝手に終わったと思ってたけど――

――陽奈乃は違ったんだな」


寂しげに呟いた岩本さんは、真っ直ぐ前を見ているようで、どこか遠い目をしていた。



夕焼けが、美麗な横顔をオレンジ色に染める。

その表情が憂いて見えるのは、暖色と影のコントラストのせいだと思いたい。



繋いだ手にキュッと力を籠めたら、また振り返るように私を見下げ、岩本さんは優しく目を細めた。






社宅の二階、岩本さんの部屋の前、ドアノブに手を掛けた岩本さんは、様子を窺うように私を振り返った。


大丈夫、と応える代わりに、目一杯微笑んだ。


フウと一つ小さく息を吐いたその後に、岩本さんがこぼした笑顔が凄く眩しくて、キュッと胸が縮こまった。


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