瞬きさえも忘れていた。
ゆるゆると振り返った彼女は、どうしてだか薄い笑みを浮かべていた。



「外、見てた」

陽奈乃さんは、ポソッと小さく呟いた。



「そっ? こっち来て。陽奈乃、話たいことが……」


「二人がこっちに歩いて来るとこ、ずっと見てた」


岩本さんの言葉を遮って、陽奈乃さんは語気を強めて言う。



「ああ……」

岩本さんは、溜息とも嘆きともとれる声を漏らした。



「とにかく、中で話そう」

言いながらベランダに片足を踏み入れた岩本さんは、陽奈乃さんの腕をすくい上げる。



「いやっ、話したくないっ!」

その手を振り払った陽奈乃さんの、叫ぶような声が私の胸に突き刺さって、その痛みはたちまち全身に広がった。



「お前は話したくなくても、俺は話したい。話さなきゃいけないことがある」

いつも冷静沈着な岩本さんが、ほんの少し声を荒げたことに驚いて、ドクッと心臓が跳ねた。


彼女もそれは同じだったみたいで、唖然とした表情で彼を見上げている。


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