瞬きさえも忘れていた。
「頼むよ、頼むから……俺の話、聞いて」

勢いを失った弱々しい声と、微かに震える彼の背中。


悲痛な光景を目の当たりにした私の中に、この選択が間違いなんじゃないかという疑念が生まれる。



二人をこんなにも苦しめて、そうして愛しい人を失わずに済んだとして……。

そんなんで本当に、私たちは幸せになれるのかな。



ゆるり、陽奈乃さんは岩本さんの背後に立つ私に視線を移した。怒りに満ちたその顔は、燃えているように赤い。



「どろぼう!」

私に向けて罵言を吐き、岩本さんを押し退け、もの凄い勢いで迫って来た彼女。

反射的に数歩後ずさった私を、両手で思いっ切り突き飛ばした。


躊躇いなんか微塵もなくて。それは凄まじい威力で私を床に叩き付けた。



「返してよっ! 達志を返して!」

彼女はそう泣き喚きながら、横向きに倒れた私に跨った。


左手で肩を床に押し付けられ、うつ伏せにさせられた。後頭部の髪を乱暴に鷲掴まれ、そこに激痛が走る。


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