瞬きさえも忘れていた。
でも彼はすぐに戻って来た。



「拭けば?」

そう言って差し出されたのは、綺麗に折り畳んである臙脂(えんじ)色のスポーツタオル。



訳が分からず茫然としている私に、

「替えだから、まだ使ってない」

彼は無表情のままそう言った。



ようやく彼の言わんとすることが理解できた私は、

「あ、大丈夫です。私も持ってますから」

慌ててそう言い、スカートのポケットからハンカチを取り出した。


よりによって、ペラッペラのリボンレースハンカチーフ。



「そんなんじゃ無理だろ?」


ふわっと被っているヘルメットが持ち上げられ、すぐさま臙脂色で視界が埋め尽くされた。咄嗟に両の目をつぶれば、それは私の顔の上を荒っぽくグルリと一周した。


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