瞬きさえも忘れていた。
本当にびっくりしてしまって、何が起こったかもわからなくて。

ポカンと見上げていると、彼がほんの少し目を細め、そしてその口元も微かに上がる。



笑って……いる?



ただそんな気がしただけで、確信なんかないのに心が躍る。


やっぱり私は彼に恋しているんだ、と。改めて思い知って、胸が痛む。



「あり……がとう」

おずおずと礼を言えば、

「ん。もう行ったら? 工場長んとこ」

追い払うような言葉を口にする彼。



チクンとまた、小さな痛みが胸を刺す。



彼が私に背を向けかけたので、咄嗟に臙脂色のタオルを掴んで引き留めた。


それに振り返った彼は、驚いたように目を見開いて、まじまじと私を見た。


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