瞬きさえも忘れていた。
彼女は病んでいるんじゃないかって、本気で疑った。



「そんなことしてません、絶対に。陰でコソコソ会うなんて嫌ですから。

別れる気がなかったら、あの時、身を引いたりしなかった。あなたに『お腹の赤ちゃんを堕ろして』って言いました」


「ひっど。本性出たね」


「酷いでしょ? だからそんなこと言わなかったし、言えなかった。岩本さんを諦めるしかなかった」


「嘘!」


「嘘なんかつかない!」


語気を強めて言い切った。


絶対に引かない。岩本さんの汚名を晴らすためにも、一歩だって譲らない。



「だったらどうして……。もう一ヶ月以上経つのに、一度も……」

弱々しく、独り言のように呟いた彼女は、その小さな身体を両腕で抱きしめて縮こまる。



「お腹に赤ちゃんがいるからじゃないですか?」

それはふと、頭に浮かんだ可能性。



陽奈乃さんは、どうしてだか驚いたように目を見張って、まじまじと私の目を凝視した。


< 161 / 255 >

この作品をシェア

pagetop