瞬きさえも忘れていた。
けれどすぐ、逃げるように視線を逸らして俯き、ふっと自嘲気味な笑みを漏らした。



そんな彼女の反応を不思議に思いながらも、黙ったまま見詰めていると、

「そうだね。そうかもしれない」

陽奈乃さんは、か細い声で力なく同意する。



不意に、勢いよく顔を上げて再び私を真っ直ぐ見据えた彼女。


「ごめんね? 疑って」

大して悪びれることなく軽い感じで謝って、可憐に笑って見せた。



あんな酷い言われ方をして、ごめんの一言で済ませようなんて納得いかないけど。


誤解が解けたという安堵と、早く彼女から解放されたいという切望によって、巧い具合に怒りは緩和された。



「もういいですか? 行っても……」

できるだけ穏やかな口調で言い、彼女の返事を待たずに背を向けた。



「待って!」

慌てて呼び止めた彼女に、思わず苛ついた。



「何ですか?」

振り返りながら尋ねれば、

「私たち、籍入れるの」

と。その視線を余すことなくこちらに注ぎ、彼女はきっぱりと言い切った。


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