瞬きさえも忘れていた。
「当然でしょ?」

平静を装い、冷ややかに言い放つ。


嫉妬にまみれたこの激情を、今、この場で晒すなんて、そんなの悔しいから絶対にしたくない。



「だけどまだ、うちの親が猛反対してて」


「だから? だから何なんですか?」


「だから、親を説得できたらすぐ、籍入れる」


「そうですか。わかりました」


どうでも良さそうに返し、再び身を翻せば、



「籍入れるまで不安なの。あなたの存在が……。

だから約束して? 達志に絶対近付かないって、約束して」



必死で堪えてきたものが爆発した。

ドロドロした醜い感情が、怒涛のように溢れ出す。



「私の方から近付くようなことはしないので、安心してください。

でも、岩本さんがもし、私を求めてくれたら、その時は迷わず受け入れます。そうなった場合も、ちゃんとあなたに報告しますから、安心してください」


不安を助長するようなことを口にして、彼女の心を攻撃した。



陽奈乃さんは唖然とした表情で瞬きを数回繰り返し、その瞳からじわり、透明な雫か滲み出た。


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