瞬きさえも忘れていた。
諦めない
事務所の階段を上り二階へ上がったけど、奥さまたちがお昼を食べている会議室は素通りし、奥の女子更衣室へ向かう。
女子社員が少ないここは、女子更衣室も狭い。
八畳ぐらいのスペースで、縦長のロッカーが6個、壁際に並んでいるだけ。
カーペットが敷いてあって、机も椅子すらもないそこは土足禁止。
だから入ってすぐ右手に、小さな背の低いシューズラックが設置してある。
脱いだパンプスはそのままに、なだれ込むように中へ入る。そして部屋の角に膝を抱えて座った。
「あーあっ」
溜息と共に、少し大きめの声を出してみる。そうしながら自分の顔を、膝を抱き締めている腕の中へ沈めた。
『達志、彼女酷いの。お腹の子、堕ろせって言うんだよ?』
『大丈夫だって、陽奈乃。堕ろさなくていいから、大丈夫』
岩本さんは、彼女が口にした根も葉もない嘘を、どう思ったんだろう……。
もう愛される資格がないなら、せめて嫌われたくなかったのに。
それすらも、私の身勝手な我儘なのかな。