瞬きさえも忘れていた。
「陽奈乃とのこと、俺は勝手に終わらせてたけど、ちゃんと話し合って別れたわけじゃないし、実際、陽奈乃の方は別れたつもりはなかった。

だから家出してまで俺のところに戻って来た。俺が陽奈乃を待ってると信じて。全てを捨てて俺のところに戻って来た」


「ん……」


頷くしかなかった。反論の余地なんか少しもない。


陽奈乃さんと別れていないなら、私とのことは浮気だ。本気だったとしても、やっぱり浮気だ。



「陽奈乃の傍にいたい。今のアイツの全てを受け止めて、あの頃の、明るくていつも笑ってた陽奈乃を取り戻したい」


その声は微かに震えていて。

岩本さんが鼻を一つすすったから、泣いているのかなと思った。



「だから梨乃、俺にはもう――


――何も期待するな」



最後の命令形には、岩本さんの全身全霊が籠められていた。



私は本当に愛されていたんだ、と。

岩本さんの愛情を痛切に思い知った私は、もうそれに従うしかなくて。


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