瞬きさえも忘れていた。
「ごちそうさま」


彼は食器返却口にトレイを置きながら中を覗き込んで、食堂のおばちゃんに声を掛ける。


「はーい、ありがとねー」

元気な甲高い声が返ってきて、彼はフッと一瞬だけ微笑んだ。


それは誰に向けたものでもなくて、そんな姿にドキリとした。



そして、私たちが並んでいる列に沿って歩き、彼は食堂出口へ向かう。


彼が一歩進めるたびに、当たり前だけど距離が縮まって、尋常でないぐらいに私の鼓動は高鳴った。



ずっと眺めていたい。でもどうか、早く通り過ぎて。


正反対の感情が混ざり合って、頭がどうにかなってしまいそう。



なのに――

彼は私たち三人のすぐ横まで来て不意に足を止める。



じぃっと、

物も言わず、私を穴が空くんじゃないかってぐらいに見詰める。


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