瞬きさえも忘れていた。
夢から醒めても
「どうしてあんなこと……。甲本さんが私のこと好きなんて……そんな訳ないじゃないですか」
階段を下りながら、岩本さんに異論をぶつけた。
私を見下げた岩本さんは、ふっと目を細めて可笑しそうに笑う。
「アイツ、テンパって本音だだ漏れだったでしょ。気付かなかった?」
「本音は本音だろうけど、私のことが好きなんて、ひとっこと(一言)も出て来ませんでした」
「世の中には、ああいう愛し方しかできない不器用なヤツも居るんです」
真面目くさった口調で答えて、けれどすぐ、岩本さんは悪戯っぽく笑って見せた。
「正々堂々くどかれたって、あんなヤツ……御免こうむります」
冗談めかして返せば、
「まぁそれも梨乃の勝手。好きにすればいいよ?」
同じく軽い感じの言葉が返ってきた。
けれどそれは、『俺には関係ない』と言われているみたいで。
胸にチクンと刺すような痛みを覚えた。