瞬きさえも忘れていた。
「そんな風に言われちゃったら俺、どうすりゃいいの?」


「どうもしなけりゃいいんじゃないですか?」


「相変わらず梨乃は――

――正直過ぎて困る」


言って岩本さんは、困ったように苦笑する。



胸にチクンと小さな痛み。

切ないけれど懐かしいそれに、どうしてだか泣きたくなった。



「正直だけが取り柄ですから」

平静を装って返し、「テレビでも見ましょう」と身を屈めて布団の端を持ち上げる。



「何やってんの?」


「え? 何って……布団畳んで座椅子をこっちに持って来ようと思って」


そう答えて、部屋の端っこに寄せられた座卓と座椅子を目で指した。



「寝る時、また敷くの? めんどい」

駄々をこねる子どもみたいに文句を言ながら、岩本さんは壁際へ移動する。


そして、壁にもたれるようにして腰を落とした。長い足は無造作に投げ出して。


「ここでいい」

と、岩本さんは満足げに微笑んで見せた。



そんな様子をただ呆然と眺めていた私に、

「ちょっとキミ、リモコンを取ってくれたまえ」

オッサンみたいなふざけた口調で言って、岩本さんは愉しそうな笑みをもらす。


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