瞬きさえも忘れていた。
座卓の上にのっていたテレビのリモコンを手に取り、

「こき使わないでください」

などと憎まれ口を叩きつつ、岩本さんに渡した。



「立ってる者は親でも使え」

シレっとそう言って、受け取ったそれをテレビに向け、岩本さんはテレビの電源をオンにした。



並んで腰を落とし、お隣さんに倣って私も足を前へ投げ出した。


液晶画面を眺めていたって、内容なんかちっとも頭に入って来ない。私の意識は隣の人にばかり向いていて。

高鳴る鼓動に耐えながら、それでもぼんやり映像を眺めていた。






不覚にも、いつの間にか呑気に眠りこけていた。



ハッとして目覚めれば、私の身体は大きく左に傾いていて、隣にある何かに全体重を委ねていた。


慌てて上体を真っ直ぐに正せば、

「うっわ、大洪水。冷てっ」

なんて言いながら、隣の彼が自分のTシャツの袖を摘まんで、パタパタとやっている。


「やっ、うそっ、ヨダレ?」

摘ままれたそこを凝視すれば、全然濡れてなんかなくて。すぐに冗談だと気づいてブウと膨れた。



視線を少し上へずらせば、意地悪く笑う美麗な顔。


私の意識は未だに半覚醒。もやっと霞んではっきりしない思考は、居るはずのない人がそこに居るような、そんな錯覚に陥った。


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