瞬きさえも忘れていた。
不思議な気まずさの中、口を開いたのは彼だった。


「早く慣れるといいね」

優しいんだかバカにしているんだか、良くわからない言葉を残して、岩本さんは何事も無かったように再び歩き出した。



吉田さんと樽井さんと私、三人でその背中をじぃっと見詰めていた。



彼が食堂を出るのを見届けると、

「こっわー」

吉田さんが大きく息を吐き出しながら言う。



「え? 何がですか?」

意味がわからなくて思わず問えば、

「『何が』って、岩本くんだよ。私、あの人苦手」

その綺麗な顔をほんの少し顰めて吉田さんは答える。



「吉田さんでも、苦手な人とかいるんですねー」

樽井さんが冗談ぽく言ってクスクス控え目な笑い声を漏らす。


「いるよー、当たり前じゃん」

そう返して、吉田さんも朗らかに笑った。


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