瞬きさえも忘れていた。
今日もきっちり八時間労働を終え、二階の更衣室に直行する。
着替えをさっさと済ませ、社を出ようとしたところで、背後から吉田さんに呼び止められた。
「梨乃ちゃん、お茶でもどう? 今日、残業ないんだ」
吉田さんは得意気にそう言って、満面の笑み。
特に予定もないし、吉田さんのことも嫌いじゃない。
むしろ、吉田さんの嫌味のないストレートな物言いが、清々しくて心地良いから好き。
もちろん、断る理由なんてないから、二つ返事で誘いに応じた。
連れて来られたのは、会社から徒歩二分の喫茶店。小ぶりで内装もシンプルだけど、すごく感じがいい。
吉田さんがアイス・オレを注文し、私も同じものを、と店員さんに告げた。
「ここのアイス・オレね、ソフトクリームがグルグルにのってんの」
彼女のこの一言で、微塵も迷うことなく決めた。
上司の悪口を面白おかしく話したり、吉田さんの彼氏の話――『愚痴』と言う名の『惚気』を聞いたりして、あっという間に一時間近く過ぎていた。
話が途切れ、束の間の沈黙。
けれど、気まずさは全く感じなくて、ただぼうっと、癒し系のインテリアで飾られた店内に視線を巡らせていた。
「あのさ、」
心なしか深刻さの滲む声で、吉田さんが口を開いた。