瞬きさえも忘れていた。
「みなさん、大変お待たせしました。新郎新婦の到着です」

マイク越しの声が場内に響き渡り、その場にいる全員の視線が入口に集中した。


慌ただしく店内に入って来た二人を、拍手と歓声が迎える。



花嫁は、淡い水色のキラキラしたマーメイドドレス。


私が知っている陽奈乃さんとは、まるで別人で。

その華やかな笑顔は、眩しいほどに綺麗だった。



新郎は、細身だけど筋肉質な感じ。タイトなスーツが良く似合っている。

涼しげな顔立ちが、どことなく岩本さんに似ている気がした。



陽奈乃さん、すごく幸せそう……。

それ以外に表現のしようがない。


満面の笑みで、皆の祝福に応える陽奈乃さんが、神々しいほどに輝いて見えた。



膝の上の花束を、ほとんど無意識的にぎゅっと握り締めていた。


どうしよう。こっそり帰ろうかな。

祝福するなんて、今の私には無理。嫌味を言うなんてことも、尚更無理だ。



大勢の取り巻きで新郎新婦の姿が消え、チャンスとばかりに立ち上がった。


足早に人の群れを通り過ぎる。

出口まであと数歩という所で、腕をそっとすくい取られ、思わず足を止めた。


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