瞬きさえも忘れていた。
振り返って見上げれば、さっきの整形外科医、池田さんが切なげに私を見下ろしていた。



「離してください」

咄嗟に口を衝いて出た言葉は、かなり攻撃的な響きを含んでいた。


けれど池田さんは全く動じることなく、穏やかに微笑んだ。



「渡さなくていいの? 花束。あとで後悔しなきゃいいけど……」

そんな気遣うようなことを言いながら、私の腕からそっと手を離す。



「だって……だって私は……」


じわり、視界に映る池田さんの顔が滲んだ。



『いつも凛としてて、どんな時でも笑顔で。そんな梨乃をすごく綺麗だと思った』

岩本さんの言葉が、ふっと脳裏に蘇る。



『どんな時も笑顔』……。



だって、今の私は笑えない。笑えるわけないじゃない。


陽奈乃さんに笑顔で『おめでとう』って言いたいけど、どうしたって出来そうにない。



「負のオーラ醸し出しててごめんなさい。でも……でも笑えない。笑えないから……」

必死になって押し出した声は、酷く震えていた。


「笑わなくていんじゃない? いいよ、笑わなくて。新郎新婦に伝えたいことがあるんでしょ? その花束は、二人を祝福するために買って来たんだよね?」


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