瞬きさえも忘れていた。
「違います。違うんです」
ぶんぶんと、首を思いっ切り左右に振って否定した。
「何が違うの?」
そう聞かれても、何が違うのか自分でもわからなかった。
「梨乃ちゃん……」
躊躇いがちな細い声で名を呼ばれ、そちらに視線をやれば――
いつの間にか、池田さんのすぐ背後に陽奈乃さんが居た。
どうしたらいいかわからない、そんな不安げな面持ちで立ち尽くしている彼女。
こうして間近で見てもやっぱり、私が知っている陽奈乃さんとは印象が全然違う。
平気で嘘を吐いたり、私に散々酷いことを言った彼女は、もうそこには居なかった。
溢れんばかりの愛に包まれた彼女は、目を見張るほどに美しく。
だから余計に、自分のことが哀れに思えて、その惨めさに泣きたくなった。
「来てくれたんだ、ありがとう」
ぎこちなく微笑んで、けれど陽奈乃さんは、とても大切そうに礼を口にする。
それは、幸せな人の余裕ですか?
不幸な私を見下しているんですか?
招かれざる客に対しても、花嫁がそう言うしかないことぐらいわかっているはずなのに、胸の奥から込み上げて来るのは、どす黒くて汚い激情。
胸に抱いていた花束を右手で掴んで、それを頭上に振り上げた。
「君、やめ……」
池田さんの叫び声が聞こえた気がしたけど、気が狂いそうなほどの嫉妬心を、どうにも鎮めることができなかった。
陽奈乃さんは逃げることも、腕で自分を庇うことすらせず、ただ――
――静かに瞼を閉じた。
ぶんぶんと、首を思いっ切り左右に振って否定した。
「何が違うの?」
そう聞かれても、何が違うのか自分でもわからなかった。
「梨乃ちゃん……」
躊躇いがちな細い声で名を呼ばれ、そちらに視線をやれば――
いつの間にか、池田さんのすぐ背後に陽奈乃さんが居た。
どうしたらいいかわからない、そんな不安げな面持ちで立ち尽くしている彼女。
こうして間近で見てもやっぱり、私が知っている陽奈乃さんとは印象が全然違う。
平気で嘘を吐いたり、私に散々酷いことを言った彼女は、もうそこには居なかった。
溢れんばかりの愛に包まれた彼女は、目を見張るほどに美しく。
だから余計に、自分のことが哀れに思えて、その惨めさに泣きたくなった。
「来てくれたんだ、ありがとう」
ぎこちなく微笑んで、けれど陽奈乃さんは、とても大切そうに礼を口にする。
それは、幸せな人の余裕ですか?
不幸な私を見下しているんですか?
招かれざる客に対しても、花嫁がそう言うしかないことぐらいわかっているはずなのに、胸の奥から込み上げて来るのは、どす黒くて汚い激情。
胸に抱いていた花束を右手で掴んで、それを頭上に振り上げた。
「君、やめ……」
池田さんの叫び声が聞こえた気がしたけど、気が狂いそうなほどの嫉妬心を、どうにも鎮めることができなかった。
陽奈乃さんは逃げることも、腕で自分を庇うことすらせず、ただ――
――静かに瞼を閉じた。