瞬きさえも忘れていた。
岩本さん、ごめんなさい。

私、笑えない……。



正直さだけが取り柄の私が、笑えるはずなんかなかった。そんなの、最初からわかっていた。


だけど、陽奈乃さんの幸せを、祝福したい気持ちがあったのも本当。



だったら、正直に……思うがままに心の丈をぶつけよう。

笑う必要なんかないじゃない。


身勝手なやつだと、眉を顰められたっていい。

どうせここに居るのは、縁もゆかりもない赤の他人ばかり。



頭上に掲げた花束を、ゆるゆると降ろす。そうしてそれを、陽奈乃さんの胸に押しつけるようにして渡した。



「絶対に幸せになってください」

半ばねめつけるように花嫁を見据え、私なりの祝福の言葉を告げた。


これが、今の私の精一杯だから。



くるりと踵を返し、再び出口を目指す。

店を出るまでは毅然としていなくちゃ、と。自分自身に言い聞かせるように、心の中で何度も唱えた。



池田さんの前を通った時、彼は穏やかに微笑んで、二回、微かに頷いてくれた。


私も軽い会釈を返しつつ、足を止めることなく通り過ぎた。


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