瞬きさえも忘れていた。
不思議な穏やかさ
あれからずっと、岩本さんを避け続けている。ついでに30号機辺りの人――甲本(こうもと)さんのことも。
甲本さんとは工場へ行かなければ会わないし、会わなければ誘われないし。
はっきり断ればいいのにそれが出来ない私は、狡くて保身的な小心者だ。
岩本さんたちが日勤の週も終わり、次に夜勤の週が来て、そしてまた日勤の週が始まる。
彼らと顔を合わすことなく毎日何事もなく過ぎてゆく。それはそれで味気ないものだけど、今の私には丁度いい気がする。
何の面白味もないつまんない私には、つまんない日常がお似合いだ。
けれど木曜日。
今日も5時きっかりに仕事を終え、着替えを済ませて事務所を出たところで、工場からこちらへ歩いて来る甲本さんに捕まった。
「お疲れ様です」
笑顔で挨拶を口にし、事務所を出て左手にある門を一目散に目指す。